2014年9月4日木曜日

ブレイキング・バッド


有名なドラマなので、説明はいらないでしょう。私もつい最近、ハマったのです。

色んな事を考えさせられるドラマですねえ。
アメリカ人がどういう了見でこのドラマに夢中になったのかはわからないけれど、私も今、夢中なんですよね。

このドラマは、脚本が面白いとかそういう、面白いドラマに備わっているべき基本的な条件は十二分に満たし切っています。それに加えて私は、彼らの創るドラッグが美しい青だという事に、大きな人気の理由もあるんじゃないかな、と思うのです。

なんか、宝物っぽいよね。

人間を破滅させる危険なヤク、すえたジャンキーの使う怪しい薬、というダークで薄汚れた印象が、彼らのブルーメスには無い。

それは創り手のホワイト先生が天才的な化学者で、このメスは誇り高き純度99%。
色んなアブナいまがい物で薄めて、ジャンキーを騙して売ろうという濁った意図が、全く無いから。

というか技術的には、そもそも始めに使っていた材料が手に入らず、別の手段を高じた結果生まれた偶然の産物ではあるのですが。

あ、もちろん、ホワイト先生に偶然はありません。
化学者だから、青くなることはもちろんわかっていたでしょう。

でも、世の中を席巻する可能性や力を持つ物って、こういう特別な特長がーこの場合は”青いメス"ですがー生まれた瞬間にもう、冠の様に与えられていること、与えられる運命にある事って、よくあることだと思うんです。

ホワイト先生のメスは、はじめはよくある白い粉だったけれど、ひょんな事から輝く澄んだ青い色に生まれ変わり、あっという間に評判を呼んで、それはそれは高価な値で闇取引されてゆくわけです。

このドラマの主人公はこんな風に、歴史にでも残りそうな唯一無二の麻薬を作って売って、必要とあらば人を陥れたり殺したりもする。

だけど元々は善良で気弱で平凡な、高校の化学教師だったわけです。

それがある日末期のがんになって余命を宣告される。
愛する家族の為にお金を残したいけれど、しがない教師ではたかが知れている。
それで始めたメス創りは、思わぬ形で彼の才能を開花させてゆき、明晰な頭脳と豊富な化学知識で、ありとあらゆる危機を、天才的に、そして生き生きと脱してゆくのです。(しかもその過程で病気も良くなっちゃうんだよね)

輝く青いメスは、徐々に開示され研ぎすまされてゆく彼の才能と存在そのものの様で、それはまさに、ゴミ溜の中に埋もれていた宝石が突如現れたかのような、きらきらとした象徴的な美しさなのです。

すっごく悪い事やってるんだけどねえ。
でも純然たるヒトという生命体としては、彼は自分の天性の持ち札を全て投入して、一流のドラッグを創り、危機を脱し、家族を守り、どんどん拡大してゆくという点で、私はなんとも責められないんだよね。

ちなみに彼そのものは、絶対にドラッグはやらない。
いつも明晰な状態で、いつの瞬間にも、とことん最高の手段を打つのです。
そしてどんどん勝ち抜いてゆく。

まだ全部見ていないから、どんな終わり方をするのか私は知らない。
数え切れないほど悪い事をたくさんして、どんどん残酷になってゆく主人公を、このドラマがどんな風に裁くのか、あるいは裁かないのか、わからない。

まだ初期の頃、「人は結局欲しい物を求める。自分らがこのメスを創らなくても、どうせジャンキーたちは他のメスを買い求める。でもそれは、危険な物がいっぱい混入した危ないメスなんだから、自分らの純度の高いメスをやった方が、彼らにとってもいいのだ。」などという、すんごい言い訳を端役の人が言ってたんだよね。

理想を言えば、ドラッグを作る人も売る人もジャンキー達も全員更正して、世界からそういう物がゼロになるのがいいわけだけど、現在の人間の世の中は、そうはなっていない。

同じ毒物ならば、欲と欺瞞に満ちた混ざり物の汚れたドラッグなんかより、ホワイト先生が誇りをかけて創る、純度の高い美しい青いメスの方が、なんだか体に良さそうな感じまでしてくるという恐ろしさ笑。

もちろん、絶対に正当化は出来ない麻薬ビジネスだけど、ホワイト先生のケースについては、人間の敷いた法律や常識や、あるいは良識や良心なんかを全く動因しないで、ただ彼の動向を見守ることを、許されている感じがするんですよね。

それがもしかしたら、開放的なのかもしれない。

瞬間瞬間に直面する現実を、最高の形で乗り越えてゆくという彼のゲームは、それがとことん、余命宣告された時からずっと、始めっから命がけだから、のんきにソファでドラマを観ている自分なんかが、頭で考えた浅薄な、外から植え込まれた良識や常識なんかで、判断しちゃいけないんじゃないかな、とも思える。

なんにつけても、粛々と行動している人を、なんにもしないで考えているだけの人が、責めたりジャッジしたりケチつけたりは出来ないってのは、人としての基本だもんね。

まあドラマも終盤にさしかかると、始めは純然たる「最高のメスを創る」マエストロだったホワイト先生が、果てしない世界征服の欲に動かされ始めちゃったから、もしもそれがホワイト先生の道ならば極められるんだろうし、そうじゃなきゃ、それなりの結末も来るのかな、って感じで、やや混沌とした様相が、出て来始めてはいるのですが。

どうなるのか、とても楽しみです。