2015年9月11日金曜日

おさななじみ


数年前に再会した時に、私たちの関係を「幼馴染み」と表現したのは、友達のルナだ。

ルナが言うんだからそうなんだろうと、私は即座に納得する。

ルナというのは私にとって、昔からずっとそういう存在である。


クラスにひとりはいる、印象的な美人。

いや実は、私のいたクラスには、印象的な美人が何人もいた。
その美人たちが何故だか集ってしまい、いつも一緒に過ごすことになったのは、何故なんだっけ。
そんでその中に私がいたのは、何故なんだっけ。

まあ、細かい事は考えないで下さい。

いつも一緒にいた美人軍団の内、茜とミクとアリスは、いわゆるモデル系の美女だ。
というか、実際にバイトで雑誌モデルなんかの仕事をしていた(と記憶している)。
白い肌に大きな瞳の茜はまるで西洋人形の様な女の子で、ミクはエキゾチックな小麦色のアグネス・ラム(古いです、なんせ私の幼馴染みの話なんで)、長身と長い手足のアリスも陽に焼けた肌に大きな瞳の、きりっとした元気な子馬の様な美少女だった。(もう二人いたんですが長くなるので省きます。すまん。)

このグループで歩いていると必ずと言っていい程通行人に振り向かれ、若い男性グループが、「見た?全員美人!」と呟いたのを一番後ろを歩いていた私が聞いてしまい、申し訳ない気分でそそくさとみなの後を追った事もありました。


そして、ルナである。

ルナは全てにおいて特別だった。

ルナは、どこにいても一瞬で人の眼を釘付けにしてしまうような少女だった。

長い髪を後ろで、腰まである一本の三つ編みに束ね、フランス映画のワンシーンみたいな、個性的で洒脱で雰囲気満点のファッション。小さな顔にかけた丸眼鏡もそれを損なわない、端正で利口そうな、隙の無い顔立ち。

言葉は常に洗練され、物腰はいつも落ち着いていて、天才に特有のちょっと人を喰ったような、普通の感情が通ってないみたいな雰囲気もあるから、見下されるのを怖がって敬遠している人たちもいた。

けれど実際にはそんな選民意識を全く持たない、ちゃんと心に暖かい血の通っている少女なんだけれども、まあ確かに、あまりにも逸脱していたから、そんな風に周りが感じるのも無理は無いと思う。

いわばただの美人である(ゴメン!)茜やミクやアリスとは一線を画す、少女としての絶品がルナなのである。

それが私の独りよがりの解釈でないことは、ルナが私のうちに遊びに来た時に証明された。


私の親は、実に美意識の高いヒトデナシだ。
あんたそれ、ただのヒトデナシだよ、とこちらが度々ヒヤリとするくらいに、美のジャッジに関して容赦が無いのである。

しかし私は心のどこかでいつも思っていたのです。
どちらかと言うとコンサバティブな美的感性の私の親には、私がいいと感じる、革新的アート系寄り世界観は理解できまい。と。
チミがいくら美意識の高さにプライドを持っていたところで、そんなコンサバな感性じゃ、これからの革新的な美にはついて行けないよ?、みたいなさ、まああれですよ、生意気なティーンエイジャーの、親を見下す心を、私も持っていたってわけ。

だから私は、自分の親が、ルナの良さを理解出来ると、思ってはいなかった。

ルナは新しい。
だから、古くさい古典的な美しかわからないかあちゃんには、あの良さはわからないわよ、ってなもんですよ。

とーこーろーがーーーーー!!!!

裏庭の木戸を開けて、沈丁花の茂みの影から現れたルナを見た時、私の母は絶句した。

私はこの時点ではまだ、母の絶句と言葉の少なさを、単なる戸惑い、と解釈していた。

なんたって、ルナは新しい。
ルナはフランス映画から抜け出して来た少女であり、存在そのものがアートだからだ。

かあちゃんに、それが、わかるわけねえべ?

いつもは饒舌過ぎて私をヒヤヒヤさせる母が、「ああ、いらっしゃい。」と言ったまま、ルナを眼で追いながら押し黙っている。
私はこの時点でもまだ、ホラホラ、ルナは新しいから、よくわからないんだろ?と心の中でほくそ笑んでいた。

しかし、ルナが帰るとすぐに、母は私をつかまえてこう言った。
「ずいぶんと、垢抜けた子ね。」

これは実は、私が初めて聞いた母からの、私の友達への褒言葉である!!
私はたまげてやや用心深くなった。

私「か。可愛いでそ?」

母「いや、なんていうか、それだけじゃないでしょ。雰囲気があって。顔は?と思って顔を見たら、顔もものすごく可愛いし、スタイルもいいし、お人形さんみたい。」

これは、普通の人の言う「あの人世界で一番綺麗だ。」レベルの発言である。
私は驚いた。

そしてこの日から、私の母を見る眼は変った。
こいつ、わかってる.....。


まあそんなわけで、コンサバな美的感覚の持ち主も感嘆させるアート系のルナは、やっぱりすごいと思ったのである。
どういう趣味に偏っている人でも、その人が目利きなら、普遍的な良さのことはわかるんだ。この認識は、その後の私の芸術作業の励みにもなりました。


そんなルナは相変わらずずうっと芸術を続けている。

ちょっと前まではアメリカの有名なゲーム雑誌にも大きく取り上げられた、すんごいアートなゲームを創っていたけれど、今はもっぱらガラス系オブジェのようだ。

それで今、入谷駅前のいりや画廊で、個展をやっています。

私も今日、やっと行けて、本当に堪能しました。

個展はあと二日なので、興味の在る方は是非いらしてください。


見る人が映り込んで完成されるガラス画。私入り笑。


ルナと私入り。


幾何模様を刻んだガラスを沢山吊るし、風と光を充てて壁にアニメーションを展開するインスタレーションは、ガラスの触れる音が画廊のBGMになっており、見ても聞いても心に染み入る作品。


Soul Gardens Ⅱ 〜 ガラスの彫刻とジュエリー展
いりや画廊で12日まで、です。