2016年12月2日金曜日

本当の薔薇のお菓子

サウスアベニューさんのtweetから勝手に拝借
2016年も年末となり、街がクリスマスの飾りに彩られる、私の最も大好きな季節が到来しています。そしてそんな時期にふさわしいお菓子を、本日手にする事が出来ました。

それは、西荻窪にあるサウスアベニューさんというお店が販売を始めた、白バラ、黒バラ、というお菓子の事。

このお菓子をTwitterで見た瞬間から、私はこれは本物だ、と感じて、販売初日の今日、いても立ってもいられずに、買いに行ってしまったのです。写真がそれ。



私にとって本物というのは、真にオリジナルでしかも生まれるべくして生まれた物、という感覚で、つまりそのまま歴史に刻まれ、何世紀にも渡って残ってゆき、やがて伝統、と呼ばれる物に育ってゆく様な、底力を持つ物の事です。

今の時代に伝統菓子とか呼ばれている物だって、始まりがあったわけですからね。
生まれた当時は新しいお菓子だったり習慣だったり文学だったり宗教だったりパフォーマンスだったり音楽だったり絵画だったりした物の中から、真に強い力を放つ物〜つまり花や樹木や湖の様に、根源的創造物、と言える様な物が、その輝きが絶えないままに、何世紀にも渡って残ってゆくわけです。

宇宙の創造物である自然界の持つ普遍性を持つ物を、人間もまた生み出す事が出来る。
そしてそういった物が何百年も、自然な形で残ってゆくのだと、私は感じているのです。

私は実は、100円ショップの様な文化の蔓延する日本が苦手でした。でも最近、それこそ今年になってから少しずつ、そこから抜け出した、これは本物だな、と感じられる様な物が生まれ始めている様に思えるのです。多分ちょっと前までの大量生産的で手の届きやすい物に人気の集る時代は、カンブリア爆発みたいな物で、淘汰と洗練の起こる前の、大量放出の時代だったのかもしれません。

私の本物志向は、絵画や音楽以外では、今現在既に伝統と認められているような物にはあまり食指は動かず、新しく生まれた物で今後伝統になりそうな本物でオリジナルな物、と私が感じる物へと限定して集中している為に、近年しばらく好きな物に出会えずお寒い時代を過ごしていたのですが、今年に入ってから特別な出会いの様な形でしばしば、いいな、と思える物を得る事が出来始めていました。

そんな密かな居心地の良さを感じ始めていた今年、この2016年の終わりに、このお菓子に出会えたのは、私にとってとても象徴的な出来事です。

このお菓子、黒バラ白バラは、苦水バラと砂糖を半年間熟成させて作る苦水地方の珍しい特産品、苦水バラ醤という物を使って作られた、黒バラは焼き菓子、白バラはチョコレート菓子です。
口に入れた瞬間に、驚くほど鮮烈なバラの香りが広がります。
このバラの香りの確かさに、今後伝統になってゆく強さを、私は特に感じたのです。

私が素晴らしいと感じる作品やお菓子には、確信、と言える様な、根拠のある強さが備わっているといつも感じます。


強さというのは、例えば絵画なんかでは線が太くて強いとか、色がはっきりしてるとか、そういう事を言うわけではありませんよね。
淡い色彩や繊細な線がそこに描かれていても、そこに地に足の付いた、確信的な何かがある事は可能です。

これは作り手が、常に多大なる自信を持って作っている、というのともまた違います。
人はいつでもいくらでも、どうしようもない物に、自信を持つ事が出来ます。
今の世では商業的な成功や、感覚の鈍さや、社交辞令や、観客からの感動バイアスのかかった感想なんかが、自信を裏付けてくれる事がいくらでもあるからです。
だからそういう、自信を持って、というのともまた違う。
もっと深いレベルでの、充足、とでも言う様な確信を、それを作る人は持っていると、私は信じているのです。
人からの評価や認識を全く必要としないような、自己の内に宿る、充足です。

白バラ黒バラを作った方がそれを感じていたかどうかはわからないけれど、これを販売する事にされたサウスアベニューさんはTwitterで、どこにも無いとびきりのおやつ、と言っています。これは本当に自然に出て来た、喜びからの言葉って感じがするんです。

私は予言しますぜ。

このお菓子は、伝統になると。

600年先にはこのお菓子が、年忘れに欠かせないハレのお菓子として、人々の間にすっかり浸透している事を。

シュトーレンやガレットデロワや月餅みたいに。


そして大切なのは、これが本当に伝統になるかどうかじゃあ、ないんです。
伝統になる、と確信出来るほどの本物の、真にオリジナルの、新しい強い光を放つお菓子を、今、食べる事が出来るという、喜び。
そんな贅沢で豊かな体験って、あるでしょうか。

年末に、思いもかけない贈り物を貰った気分です。

ありがとう!サウスアベニューさん!!