鍵を握る男・原さとし |
これは体のどこかに異常があると、そこから度々不調のサインがやってくるみたいな物で、自然界の理というものは、例外無くみんな共通しているんだなあと感じる。
私がアメリカで学んだセラピーの方法にもそれを利用する一面があり、つまりなんらかの問題が起こった時に、その問題を道標として、その問題を生じさせた根本的な心的病巣を、探っていったりするのである。
バランスを欠いている物には無理がつきもので、その無理がどんどん蓄積されて、ある日決壊したりする。大々的に決壊する場合もあるし、小出しに決壊する場合もある。
そして今回ある物の決壊の規模の鍵を、期せずして握ってしまったのが何を隠そうパスカルズのバンジョー・プレイヤー、原さとしであり、これは御本人の了承を得て語られる、壮大な決壊の序章の話なのである。(おおげさ)
今回、比較的スムーズかつ、個人的には素敵に充実しているなと感じられていたパスカルズ欧州ツアーであったが、パリでのライブ後、会場から車で10分程離れた、パリ北駅近くのホテルに向かう辺りから、この、なんらかの内在する問題から滲み出る兆とも思える出来事が、起こり始めた。
パリでのライブ会場となったLa Generaleの主催者Eさんが、ライブ後パスカルズが終電を気にせずゆっくりくつろげる様にと、タクシーの提供を申し出てくれた。おかげで時間を気にせずライブ後の会場でまったり出来たので、これは大変ありがたかった。
Eさんは大きな楽器や機材を自分の運転するバンでホテルまで運んでくれた上に、メンバーにはタクシーまでふるまってくれて素晴らしい。
過去に地元オーガナイザーが、コンサート後に会場ホールの物販などに集っていたお客様をボランティアとしてかき集め、彼らの車にパスカルズ一行を分乗させて、要するにお客様にパスカルズをホテルまで送ってもらうことにしたという驚きの出来事があって、あれにはとても驚いたし、お客様も驚いたと思う。
ライブ後十分まったりしたパスカルズ一行は、会場付近の通りにずらり並んだタクシーの列に向かい、マネージャーのフィリップがドライバーひとりひとりにホテルの場所を詳細に伝えてくれるのを待ってから、4台のタクシーに分乗した。
ホテルのある北駅近くは割と危険視されている治安地域なので、真夜中だということもあって車でスカッとホテルまで行けるのは本当によかったよ、ラッキーだよとか思いながらホテルに着いた時に私たちは、しかしタクシーが一台足りない事に気がついた。
ホテルのロビーでしばらく待ったがまるで現れる様子の無い行方不明のそのタクシーには、パスカルズの女性メンバー4人と撮影班のU5さんが乗っていて、かろうじて男子が1名乗っているから安心かもしれないけれど、今時は男子も安全では無いのではないだろうかとか色んな憶測が乱れ飛んだ。
待てど暮らせど到着しないタクシーに、徐々に顔色が変わってゆくマネージャーのフィリップとEさんが、バンでその辺りを流して探してみると言い出したが、とにかく電話してみようよと誰かが電話をしたら、タクシーが別の場所にある同系列のホテルに着いちゃって、本人達もそこかと思ってロビーで私たちを待っていたのだが、誰も来ないのでおかしいと思い、正しいホテルを探して歩き出したところだという事だった。
さらわれて港の倉庫の中に監禁されていて、朝が来たら積み荷と一緒に遠い異国行きの船に乗せられる予定なんじゃなくて本当によかった。(アメリカ系サスペンス・ドラマの見過ぎ)
とりあえず今彼らが歩いている場所を確かめ、Eさんとフィリップがバンで4人を拾いに行き、ようやく一安心なのである。
ところが。
無事に全員揃い、ようやくホテルのチェック・イン、というわけで、本日も大活躍のフィリップが手続きを済ませて全員に部屋の鍵を渡したのだが、その鍵が使えないと言って、まずチェロの三木さんが早々に降りて来た。カードキーなのでフロントデスクの人に機械でちゃちゃっとやってもらい、やれやれと部屋に戻ったが、今度はあかねさんが鍵が開かないと言って降りて来た。
しかもあかねさんの場合、ノックをしたら男性の声がして、ここはオレの部屋だ的フランス語を言ったというのだ。
フロントで雑用をしていたフィリップがデスクの人に確認すると、その日の午後にあかねさん用にとっておいた部屋に、男性客を入れてしまった形跡が、コンピューターに残っているということだった。
ダブルブッキングである。
しょうがないから替わりの部屋を探してくれのなんのとフロントでガタガタやっている私たちの後ろを、PAのおまちゃんが通った。おまちゃんはその日は三木さんと同室なのだが、やはり鍵が開かないというのだ。さっきフロントでちゃちゃっとやってもらった鍵もダメで、更にもう一度、ちゃちゃっとやってもらいに来たのである。
そんなおまちゃんを尻目に、どうやらあかねさんの為の、替わりの部屋は無いことがわかった。その夜ホテルは満室なのだ。
時間はもう午前3時くらいでさ。
大変じゃん。
ライブ終わってホテルに入ったけど違うホテルに着いちゃって、ようやく正しいホテルに着いたと思ったら部屋に入れなくて全然休めないあかねさんに、フィリップが自分の部屋を譲った。あかねさんはためらってたけれど、フィリップはホテルの人に、自分用に近所のホテルを案内してもらうことにしたから、やっぱりあかねさんがフィリップの部屋に入るのが一番の解決策なのであり、この件は落着した。
そうしたら今度はおまちゃんと三木さんが、やっと開いた部屋に入ったらななんとその部屋のベッドがツインではなくダブルベッドだったとかで急いで逃げて来て、結局はフィリップがその部屋をシングルで使い、おまちゃんと三木さんが別のホテルに引っ越す事になったのである。
いやはやなんという大トラブル続きなことでしょう!
そしてその騒動の間中、なんで私がずうっとホテルのロビーにいたかっていうと、自分の部屋のバスルームの電気が点かなかったからであり、それをなんとかしてくれるホテルのスタッフを待っていたのだが、上記の騒ぎで人手の少ないホテルはてんてこまいで、私の部屋のバスルームどころじゃなかったのであり、私は全部の騒動が終息するまでロビーで待っていたのである。
スーツケースとチェロを引き摺りながら別のホテルに引っ越してゆく三木さんがそんな私をちらりと睨み、「風呂場の電気が点かないくらいあんだよっ。」と捨て台詞を残して去って行ったのは言うまでもない。
そして実はその騒動の影で、部屋に入ったら床が水浸しだったかなんだかのトラブルに見舞われていた坂本さんが、その程度の問題を言い出す空気じゃない、と自己完結して大人しく寝ていたことも、後に判明した。
まったく、なんというホテルでしょう!!!
今までパスカルズの欧州ツアーでは、実にありえないようなホテルに泊まってきましたけれど、さすがに部屋が足りなくてメンバーが別のホテルに行かねばならないなんてことは無かったですからね!!
てなわけで、治安は悪いしホテルはそんなだしで大荒れのパリ1夜目だったのだが、本当に恐ろしいことは、翌日待っていたのである。
翌日7月21日は終日オフ日だったため、メンバーは思い思いに素敵でオシャレなパリの休日を楽しんだ(はず)。
私もジヴェルニーにまで足を伸ばし、積年の夢だったモネの庭に行くという、人生最高の部類に入る半日を過ごして、夕方予定されていたフィリップとのミーティングとその後のシャンパン・パーティーの為に、ルンルン気分でホテルに戻った。
そしたら廊下で会った原くんが神妙な顔つきで、「サラさん、に、に、に、荷物、だ、大丈夫?」と言って来たのである。
荷物?
どういうこと?
原くんが語ったのはこうだった。
その日の朝、外出しようと部屋を出たら、部屋の前にホテルのお掃除の人がいたから、ハロー、って挨拶をした。
ところが彼女はすんごく無愛想で、挨拶も返してくれなかった。
その瞬間、原くんの野生の勘が、なんか、ヤバい感じ、って思ったのだそうだ。
だから原くんは部屋に戻って、天井の一角に隠しカメラを仕込んだ。
ちょうどツアー前にファンの方から貰ったiPhone用の魚眼レンズを持参していたとかで、それをiPhoneのレンズに装着し、録画状態にセットして、部屋を後にしたと言うのだ。
そして帰ってきて、録画映像を観た原くんは愕然とした。
ななんとそこには、念入りに原くんの荷物を物色する、お掃除スタッフの女性の姿が、ばっちりと写っていたのである!!!
幸い貴重品は持って出たので被害は無かったと言うのだが、見せてもらったその映像の女性は、原くんの鞄の中から次々に色んな物を取り出しては丁寧に中身を物色し、それからぞんざいに全部まとめて鞄の中に放り込むという不敵な様子が、はっきりと写っていた。
全部の部屋でやってると思うよ、と言われて私も急いで自分の部屋へ。
幸い私も、盗まれて困るような物は部屋に残しておかなかったのだが、服のボトム、トップ、ステージ用の衣装、雑貨、下着、などをそれぞれ別の仕分けケースに入れておき理路整然としていたはずのスーツケースの中身の全てが表に出されて一緒くたに詰め込まれており、それはそれはカオスだった。
どひーっっっ!!!
やられてる。
きっとみんなやられてるよ。
み、みんな、みんな、早く、早く荷物を確かめてー!!
その映像は、フィリップの手によってホテルの支配人に見せられ、ホテルの支配人はその女性が、確かに顔見知りの従業員であることを確認して、非っ常に、驚いていたという。
支配人は、前夜から重なったダブルブッキングなどの不手際も含めて謝罪し、宿泊費のいくらかを返してくれる約束を、その場ではしてくれたんだけど。。。
結構ゴネててですね、未だにお金が返ってこないんですね。。
でもさ。
いいんですかねそんなことで。
今回原くんがビデオを撮らなければ、これからもずうっとあのホテルでは、あの女の人が盗みを続けていたわけであり、そういう意味でもホテルはもう少し丁重に対応するべきではないのでしょうか。
欧州中に展開する、ヨーロッパ最大手のあのホテル。
あのビデオを公開されたら、まずいんじゃないの〜?
と言うわけで、今やパスカルズのバンジョー原くんの手には、黄金に形を変えるかもしれないすんごいお宝映像が、あるってわけなのである。
あれ、話がそれた?
だって今回は宿泊費のいくらかを払うだけで済んだかもしれないけれど、いつかもっとすんごいことになっていたかもしれないでしょ?
いやもしかしたらそのすんごいことは、今後原くんによって、もたらされるかもしれないのである。
ホテルの明暗の鍵を握る男となった原さとし。
本人は、命を狙われるんじゃないかって結構ビビっていらしたので、私がそれ、預かってもいいよ、と説得したんですがダメでした。
さて余談なのだが。
結局のところ誰も何も盗まれていない事がわかり、私たちは改めて件のビデオを観てみた。
するとまず原くんの部屋に入って来た女性は、何かをひとりでしきりに呟いていることがわかった。フランス語だと思ってフィリップに何を言っているのか聞いてもらったら、フランス語ではなくてアフリカの言葉ではないか、とフィリップは言った。
そう、彼女はがたいの大きなアフリカ系の女性なのです。
アフリカの言葉と言われると、私はなんとなく、それはまじないの言葉なのではないかと思ってしまうのです。
部屋に入るなりまじないの言葉を唱えながら、荷物を念入りに調べて、何も盗まずに戻してゆく行為...
そ、それはもしや、祝福の儀式なのでわっ!?
彼女はアフリカのまじない師で、前夜ホテルに着いた、見るからに穢れているパスカルズ一行を見て、見るに見かねて密かに、呪いを解いてくれていたのではっっ!!??
とも受け取れるのかもしれない、盗人騒動だったのでした。
三木さんのツイートより勝手に拝借 |
(続)