2016年11月18日金曜日

発達心理学によるプロファイルonニーガン

最近、ハーバード大学児童発達研究所から、幼児期の体験と脳のニューロン結合の密接な関係に関するレポートが発表されました。

既にこれをコロラドの学校でずうっと学び、また臨床的な解消実績も数え切れない程体験している私にとっては耳新しい情報ではなかったのですが、ハーバード大学のような権威がそれを言い出せば信頼性が高まり、今後様々な一般的な心理療法にも応用出来るようになるかもしれず、ようやくの一歩前進だなと感じました。

この、脳の80%の成長が完成される生後三歳までの幼児脳の発達をベースにした心理学と心理療法は、非常に実用性が高く正確だと私は思います。
ニューロンの結合、という実質的な結果によって生じる学習認識という物は、つまりほぼバイオロジカルな現実であり、外見が太っているか痩せているか、等に等しい正確さで、その人の心の癖を、情報として与えてくれるのです。

何度かブログにも書きましたが、このニューロンの結合による深いレベルでの学習認識は、体形や姿勢にもあからさまに反映されているため、プロファイリングにも有益です。

アメリカの犯罪ドラマなどを観ていると、俳優さんなり作り手の方が実によく心理学を学んでいるのがわかります。
ニューロン結合のような進んだ分野かどうかは別にしても、犯人の表情や犯行の手口に心理プロファイル的なズレが無く、リアリティを感じさせるなと感じる物が多いのです。
表面的な言動等の辻褄合わせにとどまらず、よりディープなレベルで、例えば眼差しやふとした仕草なども合わせてそれを演じられている俳優さんを見る事も多く、そういう時には鳥肌物の感動を感じます。

例え心理学の知識の無い人でも、人間という物は現実の人間関係の中で様々な情報をキャッチしているのですから、そういったディープで詳細な演技を見れば、視聴している誰もが心の底にある、"真に迫る"、をキャッチする事が出来ると思うのです。


というわけで。
テレビ・ドラマの話になりますが笑。

沢山の方が夢中になっていらっしゃる"ウォーキング・デッド"を最近私も見始め、そしてあのドラマの中には危機状態の中でおかしくなっちゃってる人間が沢山出て来ますよね。

今まで大抵のドラマ内悪人は、上記のプロファイル的見解からいろんな分析が可能だったのですが、あのドラマに出て来るニーガンだけは、どうしても理解出来ないのです。
故に私は、初めて犯罪者に、純然たる憎しみを感じる事が出来ているという、希有な体験を今現在しています。

発達心理学やニューロン結合の様な物を臨床的に知っていると、自分に直接迷惑がかからない限りは、悪人が全部幼児の姿や顔に見えてしまって中々怒りや憎しみに埋没出来ない物なんですが、あのニーガンだけにはまったくもって、幼児期のトラウマが原因であんなに憎たらしくなっている、という系譜が見えないのです。

行動そのものを見る限りにおいて、私の知るレベルでの現実世界の有名人でニーガンに最も近いのは、北のパタリロ将軍だと思うのですが、北のパタリロ将軍とニーガンには根本的な違いがあります。

北のパタリロ将軍には明確に、"自閉期の傷"と私たちが呼んでいるトラウマを現す外観があります。
自閉期というのは生後三ヶ月までの、まだ生まれたての非常に繊細な時期で、この期間にうまく保育者の保護を得られないと、他者や環境への不信と恐怖から、非常に閉鎖的で冷酷な心を持つ可能性があるのです。

お腹が空いているのにすぐにミルクが来ないとか、抱いてほしくて泣いているのに放置された程度の体験が繰り返されるだけでも、他者への共感性の欠如した人間不信人生不信的学習認識を獲得してしまう可能性があります。

現在のパタリロ将軍の持つ痛ましい、また他者への冷たい眼差しや赤ん坊の様な体形に、その育ち切っていない生後三ヶ月の心が非常によく反映されているのです。
恐らく彼は、充分な愛情と安心感を乳幼児期に体験出来ないまま成長したのでしょう。


しかーーーし!!!!

ニーガンはどうでしょう。
ニーガンの容姿は、非常によく育っていますよね。

もちろんこれには、ニーガンを演じている俳優さんの要素が多分に影響はしてしまいます。あの俳優さんは恐らく、おおらかで愛情深い保育者の元、ニューロンの結合が健康的に成される程度に十分な安全性の中で、育った方なのでしょう。

年齢に相応しい成熟した容姿と貫禄、萎縮や緊張を感じさせないおおらかな四肢、実際のところ、別のドラマなどで彼を拝見すると、愛情深い表情を無理無く演じられていて、バランスのとれた心の健全さを、とても感じさせてくれます。

その彼があのニーガンを演じているわけですから、実際のプロファイリングに合わないのも当然と言えば当然なのですが、私の臨床経験上、現実にああいう、見た目は立派で発達心理学的にも問題無さそうに見えるのに、なんだかおかしい、という人が、いない事も無いのです。

そういう前提の元で私は、一生懸命ニーガンを観察しているのですが、今のところまったくもって、"トラウマによるニューロンの結合不備が原因で悪くなっている"という印象を、持てないでいます。
ガバナーは簡単でした。だからガバナーを憎む気持ちには、私はなれませんでした。
でもニーガンは。


ニーガンには、人に暴力を振るう時、眼差しの中に、冷酷な喜びや微かな恐怖や静かな興奮や怒りなどが、無いのです。
非常に静かな、穏やかな眼差しで、人を酷い目に合わせています。

これには、無意識下のニューロン結合不備つまりトラウマが全然活性化されていない、つまり、トラウマを原動力にはしていないな、という印象があります。

ニーガン役の俳優さんが大根なのでしょうか。
そうは思いません。
何故なら、ニーガンには安っぽい表面的な悪魔的表現も、無いからです。

少なくとも言えるのは、ニーガンは確信をもって、安定した心からあの悪事を働いているという事。

子供時代に得られなかった何かの代償を求めてとか、何かへの憎しみや復讐とかの、代替行為ではないということ。
それを非常にうまく、彼は演じていると思うのです。

もちろん今後、ドラマの中でニーガンの背景が描かれる事もあるかもしれません。
もしもその中で、過酷な幼少期を経て、のような話があった場合、彼の場合はそのトラウマがあまりに深く、脳自体に損傷あるいは変質を負っているレベルの、重傷なケースだという事は確かです。


ところでウォーキング・デッドには、リックというリーダーがいますが、ニーガンはリックのナルシシズムを、執拗に攻撃していますよね。
あれを見ていると、ニーガン本人にも自己愛性のトラウマがあり、同族嫌悪みたいなもんがあるんじゃないか、とも思わせるのですが、しかしここにも私は、ニーガンがトラウマから、リックをやっつけているわけではない、という印象があるのです。

単に、まるで神の鉄拳のように、リックの肥大したナルシシズムに対して、自覚しろ、反省しろ、屈しろ、とやっているように見えてなりません。

一体ニーガンて、なんなんでしょ。


原作の印象は、テレビのニーガンとはまるで違うし、色々な理由から辻褄の合わない事もあるのかもしれませんが、例えそれがフィクションであっても、創作物には時に、何かおおいなるものの意図が、降りている場合があります。

だからそれがドラマの中で暴走するフィクションな存在だからと言って、作り事では済ませない事もあると私は思うのです。

特にドラマ版ウォーキング・デッドのニーガンの様に、心理学的な面から見ても謎めいた存在の場合、何か注目に値する存在の意味が、あるように感じてならないのです。

ですので今のところものすっごく憎たらしいニーガンですが、まあ興味深く見てゆきたいなと、思うのであります。