12月22日に、遂に”夜の森博物誌"の冊子が出来上がってまいりました。
これは、友人の営むユニークなアート雑貨店”ニヒル牛2"で今年5月にさせていただいた個展の、カタログ兼用物語絵本です。
ニヒル牛2との付き合いは、開店当時から10年に渡りますが、スペースをいただいておきながら、私は殆ど作品を置かず売らず、ただいたずらに日々が過ぎて行っていました。
しかし今年ニヒル牛2が、建物の老朽化が原因で大晦日をもって閉店すると知り、この10年間ただ漠然と、稀に頭に去来していた、あのスペースでこんな物を売りたい、やってみたい、という想いを、全て今年中に実行に移さねばならなくなったのです。
やりたい事を先延ばしにしていた事への報いを、期せずしてニヒル牛2が教えてくれたという始末です。
さて、かくして私は、突然今年からニヒル牛2にて、様々な物を創っては販売し創っては販売しを繰り返し、おかげさまで私の"箱"は以前の様な凪状態から脱する事が出来ました。
そして最終目標と掲げていたニヒル牛2での個展を、店主のあるくんに相談したのは、ギャラリー空間でのイベント・スケジュールがほぼ埋まってしまっていた、今年の1月だったのです。
気持ち的には、2015年11月くらいに出来たらいいなーと思っていたニヒル牛2での個展ですが、そんな事情から5月開催と決まり、それでもなんとかねじ込んでくれたお店には、本当に感謝しています。
しかしながら、2015年前半の私のスケジュールは怒濤を極め、しかも、個展をさせて!と申し出た物の、何を飾りたいのかも決まっていなかった私には、その後悶絶の苦悩が待っていました。
始めは、ニヒル牛2で販売させていただいていたウサギや鳥のイラストを入れた小物の展示にしようと思っており、ウサギ店長と名付けたファンタジックなデカ人形まで創って、なんとなくうまく行く様な気になっていたのですが、徐々に違う様な気がして来て却下。
私に却下されたウサギ店長 |
その後まっさらな状態になってしまった個展のアイディアを、どうしようどうしようと悩み続けた挙げ句、なんと個展開催の5月に突入してしまったではありませんか!!!
しかも5月は最初の10日間は長野に籠って知人の為、通訳手伝いをする予定が入っていました。
個展は22日からで、ゼロから何か創らねばならないわけで、これはもう、人類史上最大のピンチです。
そんな状態なのでお店も全く私の個展について告知していませんでしたから、もうその頃には、「やめてしまうのも手、ニヒル牛2最後の年に、念願の個展を申し入れたものの、時間もアイディアも無いままに中止した、という臆病者のろくでなし認定を、一生引き摺って生きてゆくのも一笑、いいんじゃね?もうそれで」とやさぐれた諦めモードが、強く私の心を支配し始めました。
そんな時です。
頭の奥で突然、「夜の森博物誌」という声が聞こえたのは。
むむ?と思ってその声の方向に耳を澄ますと、そこには自然史学者ギュスタフ・アーレと名乗る痩せぎすで背の高いおじさんがいて、そのおじさんは、長年憧れていた、"フォレト・ヌ"という名の伝説の森を目指していました。
絵画の個展にするには時間があまりに無くて、クオリティに期待が持てません。
だけど、もしも展示されている絵を描いたのが絵描きを自称する私ではなく、自然史学者さんなら、そんなに上手じゃなくていいんじゃね?
そんな卑怯な考えが、遂に実現した、"夜の森博物誌〜自然史学者ギュスタフ・アーレの手記"、という展示になりました。
そして私はなんとか個展前日に、ギュスタフ・アーレが森で描いた(という設定の)油彩画と色鉛筆でのスケッチと、アーレの娘ノラが描いた(という設定の)ちょっと風合いの違う森の絵数点と、道で拾った伐採直後の木の枝をごっそりニヒル牛2に持ち込んで展示を済ませ、今年1月から始まった苦悩の結末を、遂に見たのでした。
苦悩の結末 |
そんなわけで、その後しばらく廃人状態となり、本来なら来ていただいたお客様にその場でご覧いただきたかった"夜の森博物誌"の物語を綴った冊子が、うーーーーーーーーんと後回しになってしまったことを、大変深くお詫び申し上げます。
この、始めはただの通りすがりだった夜の森が、個展終了後も私の頭に大量の情報と風景を送り続けている為、一体どうやってまとめたらいいのかわからなくなってしまったという事情も重なり、個展後7ヶ月も経過しての仕上がりになってしまいました。
今回お届けする冊子は物語の重要な導入部です。
現在、そこに続く壮大な森の話を、ふとした折りに書き続けていますので、そちらもいつか、お届け出来る時が来ればいいなと思っています。
そんなわけで、思わず懐古してしまったいいわけがましい私のジタバタ物語と目の前にある仕上がった夜の森の冊子を見比べてしみじみと安堵しつつも、ご予約いただいた皆様とニヒル牛様には、大変大変深くお詫び申し上げます。
ところで、物語を読んでいただくとわかるのですが、最近私が焼いている大量の鳥型の皿は、夜の森に棲むクラルハイトという鳥を象っている物であり、その焼き物はお話の中にも登場します。
こんな風に夜の森は、三次元の空間にまでその領域を広げているのです。
私は何を自分でするという事も特にしないままに、今後は自然に広がってゆく夜の森の気配を、ゆっくりと楽しもうと思っています。