2015年6月4日木曜日

霧の中にいるのはなんだ


友達のなおちゃんに薦められてTHE MISTという映画を観た。

その前夜にNESTという映画を観ていて、映画としては断然THE MISTの方が名作だと思ったんだけど、両者には私がいつも感じる共通の疑問が横たわっていたのが興味深かった。

で、THE MISTがすごいのは、その疑問点に意識的な焦点が当たっているのでは。と思わせてくれる知性があるということだ。
NESTの方は、もっと天然です。

どんな疑問かっていうとですね。

何か恐ろしい事態に巻き込まれる、という運命に遭遇するホラーサスペンスな映画の中で、どういうわけかいつも決まって主人公が、「何でこうなったのか、なにのせいなのか」という背景だの理由だのに捕われるあまり、逃げ遅れたり事態がぎりぎり最悪のところまで行っちゃうっていう、アレなんですよ。

NESTの方では、新居に引っ越して来たら不審な塚が裏庭にあって、奇妙な出来事が多発、飼ってた猫がかわいそうな姿(喰い刺し)で見つかる、娘の異常行動も始まっちゃった、ってな時に、お父さんが何をするかって言うとですね。

塚を研究している専門家を探したり、その家での過去の出来事を検索したりして、逃げるのを後回しにするんですよ。

まあ、映画だから、背景を探るプロセスが無い事には物語として成り立たないっていうのもあるのはわかるんですが、現実的に考えて、猫の喰い刺しが庭先で見つかった時点で、小さい子供のいる家族なら、そのエリアからとりあえず、逃げるべきじゃないっすか?化け物じゃないにしても、なんか肉食のケモノがいるみたいなんですから。
特にその映画の中の家族は、お父さんが作家で、そこに住まないと生きてゆけないわけじゃないし、経済的にも豊かそうなんですよね。

なんだってあの父ちゃんは、いわゆる、"犯人探し"をすることに躍起になるばかりで、解決する方にエネルギーを注がないのか、と、私は不思議に思うわけです。
大人ならみんな知ってますよ。
犯人探しは、解決策探しとは違うんだってことくらい。


で、THE MISTの方は、それを更に、明確な形で見せてくれます。

これは突然謎の災厄をもたらす霧が発生した街で、地域の人たちが一軒のスーパーマーケットに立てこもって霧から隔離された状態で、その恐ろしい事態からどう逃れるかを模索する話です。

この映画、ホラーサスペンスにありがちな善の象徴にして正義の味方・一時の父であるヒーロー的立ち位置の男性と、事態をややこしい方に向けてしまう悪役・自分を神に選ばれし者だと信じている宗教かぶれの女の対比が、大変面白いのです。

絶対絶命な中にあって、女は聖書を読み上げながら狂信的な妄想の中で、今一体何が起こっているのか、を人々に解く事で、徐々に信奉者を増やしてゆきます。

この女は、何故こんな事が起こってしまったのか、自分たちはどんな状況にあるのか、一体誰が悪いのか、を語るだけで、解決法について頼りになるような情報は、全く持っていません。

対するヒーローの男の方は、一体これはなんなのか、もしかしたら軍がやっていた実験に理由があるのではないのか、と、これまた犯人探し原因探しに頭が持ってかれていて、私の目から見ると着眼点が違うだけ、つまり宗教女は「これは贖罪だ」と言い、ヒーロー男は「これは軍の仕業だ」と言い、悪と位置づける対象が違うだけで、ふたりとも全くおんなじ事をやってるだけなの。

そしてまあ、贖罪だ、と言ってる女よりはどうやら本当の原因らしき、軍の実験、というあたりを嗅ぎ付けたヒーロー男の方が断然頭良さそうにいっけん見えるんだけど、実際のところ、犯人がわかったところで解決には繋がらないんだから、やってることは同じな訳です。

そしてこの映画は、私のそういう判定に、見事に応えてくれるんですね。
だから多分、この映画は意識的に、そういう人間の愚かさを描いている部分もあるなと思えるのです。

霧の中にいるものは確かに恐ろしい物だけれど、ヒーロー男も宗教女も、そこに日頃の自分の持っている怖れや不信感の対象を投影し過ぎていて、そりゃあもう、とにかくジタバタし過ぎ。

自分だけジタバタしてりゃあいいのに、リーダーシップをとって人を巻き込むもんだから、もう大変です。

軍の実験がこの霧の原因だ!!やっぱりな!!!!

って。

だからなんなのよ。

そんな、犯人探しや悪者探しにエネルギーと時間を割くくらいなら、さっさと建設的な、自分にも人にも助けになるような、発展的、創造的、画期的、革新的な、本当の解決に繋がる解決策を、とことん探ったらどうなのよ。

THE MISTは、犯人探しばっかして解決策探しを怠る人間に、きっぱりと罰を与えてくれる、気持ちのよい映画なのでした。

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