2015年8月8日土曜日

パスカルズ欧州ツアー(2)



会場La Generaleのキッチンがかわいい

レンヌでの本番を終えたパスカルズは、翌日またしてもTGVでパリへ移動。そのまま地下鉄でパリの会場 La Generaleへ直行した。

実は私、何度もパリに来ているにも関わらず、TGVに乗るのは初めて。
フランスの新幹線的位置にあると聞いていたのだが、ホームに入って来た車両は大変汚れており、しかも遠距離を飛ばす列車なのだから当然大きな荷物を持つ客も多いだろうに、列車には数段の階段がついていて、それを上らねば乗れないデザイン。これが結構ストレスだった。

渡欧前に、外国の方がYou Tubeに投稿した日本の新幹線の奇跡と題された映像、つまり、非常に短い東京駅での停車時間内に、ありえないほど手際良く車内清掃を済ませ、完璧に清潔な状態で次の乗客を迎えるまでの奇跡の映像を拝見したばかりだったので、TGVの全体的に薄汚れたありさまを見て、なるほど日本の新幹線は異例なのかもな、と納得。

ナショナリズムを苦手とする私は、日頃どちらかというとアンチ日本的意識を持ちがちなんだけど、それはそれで逆差別、いいところはいいとちゃんと認めなさい、と天から言われているような気がした。
TGVに乗って怒らないフランス人は素晴らしいとも思いましたが。

ただ、なんとなく可愛い感じの椅子や内装が、一旦座席に落ち着いてしまうと結構楽しくて、慣れてしまえばそんなに嫌いじゃないな、と思ったのも事実である。
結局のところ、ある種の期待や前提が、目の前の現実への評価を決めてしまうという側面があり、だからそもそも新幹線を基準にした期待を念頭に置いていなければ、TGVはTGVで楽しいのである。

飲み物や食べ物を買うのにすっごい並んでて時間がかかっても、ゲトした皿に乗っている料理は、新幹線の中で買えるサンドイッチなんかよりもずうっと人間の食べ物らしかったし。

という感じで、TGVの中でTGVについての腹にイチモツをあれこれ感じながら、いよいよパリに着き、今度は地下鉄に乗り換えて会場まで移動するのである。

レンヌにいる時にマネージャーのフィリップが、この地下鉄移動に関してまるで中東の戦地に出向くみたいな注意喚起を行ったので、私は怖かった。

言わば、日本人は狙われやすい、スリがいるから手荷物は見えないように持て、みたいな事なんだけど、5月に日本に来たパリ在住の友達もまた、パリはみんな怒ってて怖い、なんて言っていたので、私のイメージの中での、このパリ市内地下鉄移動は、今回の欧州ツアーの中で最も危険な戦地、という印象だったのである。

実際はどうだったかと言うとですね。

パリの地下鉄の中の人たちは、東京の地下鉄の中の人たち同様に無表情で愛想は無いものの、ギラつくまなざしでこちらを凝視するギャングの集団というわけではなく、なんとなく全体的にマヌケな風情で乗り込んで来た日本人の団体に対して微妙な好奇心を覗かせながらもいきなり襲いかかってくるでもなく、私の向かいの席の素敵なお洋服のご婦人なんかは、ドアが閉まりかけてあわてて乗り込んだパスカルズ一行の様子を横目で観察しながら時々私に微笑みをくださり、なんと駅に降りたら窓越しに手を振ってくださったりして、怖いというよりむしろほんわかといい気分でこの戦場を後に出来たのである。

案ずるより生むが易し。

とは言え私は現地の人が危険喚起をくれた時に、それほどでもないでしょ、という心的態度をとるつもりはない。
彼らは根拠があってそういう注意をしてくれるのであり、現実的にはそれが多少大袈裟であっても、すんなり受け入れたところで損になるわけではない。
戦場だと思っていた場所に意外にもきれいな花が咲いていたとしても、それはプラスの心象をくれるだけで害にはならないのだ。

それにパリの会場La Generaleは、主催者のEさん直々運転の機材運搬用バンで、私たちがレンヌから到着するパリの駅まで迎えに来てくれたので、私たちは大荷物を持たずに地下鉄に乗れて、これはもう本当に、大助かりだった。

会場La Generaleは、Eさんの主催するグループがパリから借り受けているもので、よく事情はわからないのだが様々な文化的イベントを開催している。
Eさんは以前からパスカルズを招きたいと思っていてくださったそうで、今回、パリでのライブ会場を探していた私たちのニーズにピタッと合ったというわけ。

しかも、直前に決まったライブで宣伝も出来ず、あまり期待していなかった集客も超満員でした。ありがたいですね〜泪。。。

レンヌでもそうでしたが、こちらのお客様は拍手の時に「おおーーーー!!」という歓声をくださり、それがとっても暖かいのです。
リラックスして心から楽しんでくださっているんだな、という客席の雰囲気は、演者の自由度を高めてくれると思うな。相乗効果で、のびのびと演奏できると私は感じます。

空間全体がリラックスして楽しんでいる、という状態は、独特の煌めきを、その現場に創り出します。よくパスカルズのライブの感想に、多幸感がある、という言葉を目にするのですが、あれは実は、お客様自体が全体で創り上げている空間のエネルギーの影響ではないかと、私は思っています。

私はそもそも人見知りが激しくて、それで漫画というたったひとりで出来る仕事を選んだのですが、ライブをさせてもらうようになって感じるのは、人間の楽しさや喜びという感情の力のすごさっていうんでしょうか、それが塊となって会場を満たして空間を塗り替える時の、すごい影響力をまざまざと感じるのです。

音楽がきっかけとなって、というのは確かにあるのかもしれませんが、お客様と五分五分の相乗効果ではないかと、私はいつも思います。

試しに皆さん、今度どんなにパスカルズのライブが楽しくても、石のように心を固くして地蔵の様に無表情で客席にいてごらんなさいよ。そういうお客様がいっぱいいたら、多幸感の波なんて起こらないにちがいない。(冗談)



ところでこの会場は大ーーーーーーきな倉庫、って感じのところで、古くてとても趣きがありました。

会場前のお客様の様子

こういう会場でライブをやれるっていうのは、パリでのひとつの醍醐味ではないかと感じました。音響も、フルPAを使っていないとは思えない程豊かだったと聞きました。

この会場は、広くて中ががらんとしているし、空間に雰囲気があり、色んな空間演出の可能性を感じました。
主催者のEさんが気に入ってくれれば使用料や機材料を取られるわけでもなく、また恐らくこの会場とEさんの実績なんだと思うけれど、直前の告知でもこれだけのお客様を集める事が出来るっていうのは、すごいことだと思います。公共施設なので無料イベントしか出来ないのですが、もしも 見てもらう、聞いてもらう、ということが目的ならば、日本のパフォーマーの皆様も、ここは是非お勧めだと思いますよ。

吹き抜けの天井の大きなロフト部分に、Eさんがしつらえてくれた楽屋空間があり、そこで果物やワインや、すごく美味しい、しかし度数の高い地ビールを振る舞ってもらい、何度もパリを訪れてはいるものの、今回は中々コアな体験が出来たなーと、私は感じ入っていたのであります。

ところでアタシね、なんとなく感じたんだけど、いつも一緒にいた、すごーくニコニコしている穏やかでハンサムなおじさまいたでしょ?あの方って、Eさんの恋人なんじゃない?

ていうのは、あくまで私の推測ですが、まあそんな、素敵にオシャレさんなパリの夜なんでした。(続)

Eさん、じゃなくてEさんの猫

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