2016年2月19日金曜日

イディアル・セルフ・イメージ

ドナルド・トランプ

ドナルド・トランプへの投票数が共和党のトップになったというニュースを聞いて、まあ、どうせ最終的にこの人が大統領になることは無いだろうと楽観的な見地を保ちつつも、万が一大統領になった場合、彼はその仕事をきちんとやれるのかなと思って、今やっかいになっている家主の意見を聞いてみた。


家主は、アメリカの議会のデザイン上、ひとりの政治家が暴走出来ない様になっているから、トランプが当選したところで世界が破壊されるような事は無いだろう、とだけ言った。

では、トランプが意外にも、いい大統領になる可能性は?と更に質問し、ここから結構話が盛り上がったのです。

既に専門家が指摘している様に、ドナルド・トランプは典型的な、自己愛性人格障害の傾向を持っています。
自己愛性人格障害というものには双極性があり、表的出方をするとトランプの様に肥大した自己像を持ち、声高に「オレはヒーローだ。」って感じになりますが、ヒーローだ、ってのは明らかに誤った自己像なわけです。で、裏的出方をすると物静かで自信無げでありつつも、でもやっぱり誤った理想の自己像を抱えていて、その役割を演じていたりするのです。

つまりこの両者とも、自分をとてもいい人物だと勘違いしたまま生きているというわけですが、勘違いなので明確な自意識は無く、もうすっかり自分を正義の味方で優しくて弱者の味方でいい趣味でとにかくとてもいい人だと思い込んでいるわけです。

ドナルド・トランプの髪型がヘンなのは、その勘違いの産物では無いかと思います。お金持ちなので、いくらでも素敵なウィッグを作れそうな物ですが、彼は薄くなってない領域の髪の毛をうんと長くしてその髪の毛で薄い部分をカバーしている為、とっても奇妙なヘアスタイルになっているわけですが、こういう外見が人から見て奇妙だと客観視する感性が不足しているんだなと、私は思うのです。


ところで、自己愛自体が悪いわけでは無いのに、何故に自己愛性人格障害、と人格障害、という名がついているかと言えば、実はこの人たちには本当の自己愛が無いからなのです。つまり、極度の自己不信を錯覚で補っているだけで、実は本当の自分に強い嫌悪感を持っていたりします。ですので、本当の自分の上に、どこからか盗んで来た理想のイメージの皮を被っていて、それを自分だと勘違いして生きているわけなのです。

本当の自分とはかけ離れた理想の自己像を、自分だと思い込んで演じている訳ですが、やはり本能的な部分ではこれが「自分にも他者にもついている嘘だ」、という認識があるらしく、それ故にこの自己像を外部から脅かされると、こっちがびっくりするような狼狽あるいは意外な攻撃性や、自己像を守る為の必死の取り繕いを見せたりします。

つまり自己愛性人格障害の人にとって、自分の抱えている自己像とは違う印象を他者が持っている事が、死ぬ程嫌、な場合があるわけです。


私はここに、唯一の望みがあるんではないかと、家主に言ったのです。


はっきり言って、トランプが持っている理想の自己像が嘘なのかどうかなんて、こっちには関係ありません。
大切なのは、彼が自分にも他者にもついている「嘘」を、行動で全う出来るかどうかです。

もし彼が、「ヒーロー」という自己像に固執するなら、その行動が「ヒーローらしくない」と指摘されたら、一生懸命「ヒーロー」らしくするんじゃないかしら。
でも、彼の内面には全く真のヒーロー部分が無いわけです。

ここで出番なのが、自己愛性人格障害の人の特性、「真似」です。

もし彼が、必死に自己像を守ろうとして、スーパーマンやキャプテン・アメリカを真似たらどうでしょう。
そこには立派な、本当っぽいヒーローが、誕生するんではないでしょうか。

と、私は期待を持ったのです。


だけど。

もしもドナルドが本当に自己愛性人格障害だった場合、ありがちなのが、自分をヒーローと認めない周囲、つまり自分の自己像を偽りだと見破った人たちの事を「敵」と見なし、いきなり攻撃的な行動を仕掛けて来る可能性があります。

そして大抵こういう人の張りボテ感を見破れるのは、健全な心を持った、良識や教養のある人たちです。

教養というのは教育の程度ではありません。人質、という意味での教養です。
つまり今後こういう有識者達が彼の標的になってしまう可能性も、今後あるんじゃないかという気がします。

あと、ヒーローとして自分以外の人がもてはやされるのもイヤだから、真のヒーローがアメリカ政界に誕生したら、潰しにかかるかもしれません。
加えて自己愛性人格障害の人は、真似っこにも関わらず自分をオリジナルだと思いたいし思わせたいので、キャプテン・アメリカやスーパーマンの存在をも、無かった事にしようとするかもしれません。

ドナルドの今の標的はテロですが、もしも自国の中で彼の自己像を脅かす様な存在や見解が出て来た時に、簡単に標的が変る可能性は大なのです。

なんたって、自己愛性人格障害者にとって一番大切なのは、偽りの自己像を他者も認めてくれる事であり、他の事なんて実は殆どどうでもいいからです。

だからやはり、この人が大統領になっちゃダメなのかもしれません。


それにしても悲しいのは、彼の様な人が大統領の座につく可能性があるという現実です。

ドナルド・トランプなんて、自己愛性人格障害としてはまだマシな方です。
何故なら、あからさまにその奇妙さが、表に出ているから。
だから多くの人たちは彼のニセモノ臭さを見抜いていて、からかったりパロディに使ったりしています。

それでもなおかつ、彼に投票する人がいるという現実。
彼を見破らない、そういう人たちが、見破っている人と同じくらい、いるという事です。


彼の被っているヒーローの皮を、敢えてはぎ取らずに、何かを信じようとしている人たち。

家主は、彼に投票する多くの人たちは、恐怖感に動かされていると言っていました。

つまり、ニセモノでもなんでもいい、矢面に立って自分を守り代弁してくれる人物でさえあれば。
テロリストだろうが善良な市民であろうがムスリム全部をアメリカから追い出して、国連や良識者から非難という泥をひとりで被り、自分の抱えている他者へのやみくもな恐怖を自分の替わりに正当化してくれる人物なら、品性下劣なろくでなしでも全然オッケー、というわけです。


実のところ、世間一般で自己愛性人格障害の人が見破られず、むしろ好かれたりしている傾向には、こういう現実があるのかもしれないと思いました。

その人のニセモノ臭さを実はどこかで見破ってはいるのだけど、いい人というレッテルを欲しがる限りその人物は他者を傷つけたりはしないし、むしろ利益をもたらしてくれる、ーつまりナルシシズムの人は評判を気にするあまり役に立とうとする傾向も多いのでーという損得勘定で、その人を好ましいと解釈しているケースです。


もしそういう事があるんだとしたら、やはり悲しいなあと思います。

悪い行いがはびこるのを助けるのは、善人の無言さだという誰かの名言がありました。

許容する事、寛大である事、誰かの奇妙さに気付かないふりをする事が、必ずしも良い行いとは言い切れないという事が、私はあると思うのです。

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