2014年10月28日火曜日

カボチャを彫る

今年の作品

今年もハロウィーンはやってきて、そして一度覚えたパンプキン・ケービング(彫)の味はそうそう忘れられるものではなく、あたしゃ今年も彫ったね、ジャック・オー・ランタンを。

このでっかいランタン用のカボチャは、毎年スーパーで山の様に売られている。一個10ドルくらいで。

某空港のディスプレイ


アメリカではハロウィンに家族や友人で集ってカボチャ彫りパーティーをするので、私もよく招かれるのですが、去年まで自分で彫ったことはなかったんです。

だってすっごく固そうじゃん?日本でさ、カボチャ料理するのって、ただごとじゃなくね?ナタでも無いと割れない様な固いやつあるよね。そんなやつを彫るなんて、箸より重い物持ったことないオイラのする遊びじゃないよね。と去年までは思っていた。

しかしなんとこのカボチャ、実は林檎みたいに柔らかくて、プラスティックの玩具みたいな専用ナイフでサックサク彫れるんですよ奥さん!その彫る手応えがなんとも快感で楽しい。一度やったらやめられません。
だからランタン・アートの凝ったのなんて、本当に絵画のようなのがあります。見てくださいよコレ→ Edge The Of Plank
私も、もう少し慣れたらこんな境地を目指してみようかななんて思っています。


ところでてっきり食べられないもんだと思っていたこのカボチャ、実はこうして彫って楽しんだ後に、パイにしたりして食べるんですってよ!
でかいから大味なんじゃない?と聞いたら、確かにそうだけど、砂糖やシナモンで味付けするから結構美味しくいただけるんだそうです。

今年の私のケービングは、コロラドの学校のクラスが始まってから、休み時間にちびちび独りで彫っていたんですけれど、種を捨てようとした私の前にクラスメイトが立ちふさがり、「た、種が美味しいのに!」と、これまた新しい文化を教えてくれました。

で、彼女が作ったのがこれ。

殻ごと食べて海老の味がするお得な種

ランタン用のカボチャの種にオリーブオイルと塩をかけて、さっとオーブンで焼いただけなんですけれど、ななんとコレが、まるっきり海老の素揚げみたいな味で、すっごく美味しいのです!
あんなに美味しい甲殻類を、アレルギーで食べられない気の毒なパスカルズのチェロ奏者三木さんは、これを食べればいいのにと思う程です。(余計なお世話か)

去年のランタンは作ってすぐに、ウサギやリスの襲撃によって食べ尽くされてしまいましたが、今年は何故かずっと残っていてくれて、夕方になると灯をともし、とても楽しめました。(上の写真)

これは食べられちゃったやつ。↓

文字下の部分が食べられてしまった去年の作品

ところで。

今年私は、クラスの内輪でだけ通用するような小洒落た(つもりの)、そして深淵な(つもりの)ジョークを、ランタンに施したんですよ。

私としてはてっきり大ウケするものと思ったんですが、クラスのみんなからはしばし何の反応も得られず。。。。。。。。。。。。

はずしたつもりは無いのになんなんだよ、と日々募る不満を口にも出来ずに過ごしていたのですが。

ある日の昼休みに先生がやってきて、ランタンに彫ってあるあの言葉って、わざとああやったの?と聞くので、勿論ですがなにか?と答えると、やっと堰を切った様な大爆笑が。それだよ!それを待っていたんだよオレは!!なんでこんなに待たせたんだよ君たちは!!!!ってなもんですよ。

するとななんと先生は、英語がファースト・ラングエッジじゃないこのワタクシが、あんなすっげえ英語の駄洒落を思いつくとはすぐには信じられず、スペルミスの偶然の産物なんじゃね?と半信半疑だったって言うんですよ!

その場にいた何人かは、いや、自分は気付いていてすごく感心してたよ、と言ってくれたんですが、大多数は、そ、そうだったのか!!と初めてそこで開眼した様子。

いやあ、人間の思い込みとは、かくも恐ろしいものなんですね。
私が私じゃなくてジョン・クリーズとかだったら、言葉の最初の一文字を見ただけで、みんなわけもわからず爆笑したにちがいない。そんなもんだよ人の世なんて。

去年の作品を抱え、薄暗い部屋で笑うホラーなオレ

そしてまた、それは一体どんなジョークだったのか、とここで日本語で説明しても、アメリカン・ジョークを日本語で語っても全く響かないデイブ・スペクターのように、決して面白くないはずなので、説明はしませんがね。

ジョークって、実はとっても繊細なナマモノだよね。
些細なタイミングや状況で、全然生きなかったりするんですよね。

だからこそ、同じ瞬間に同じことで笑えるかどうかが、仲良しでいられる大切な条件だったりもする。(それが全てではないけども)

そういう意味で私はしばし、大変孤独な日々を送りましたよ。しかし最終的には誤解(?)も解け、みんな笑ってくれたんでよかったよかった。

そしてこの出来事が今年の私にとっては、最もハロウィン恐怖な体験なのでした。



ゴールデンのダウンタウンを歩くハロウィン親子

2014年10月23日木曜日

ヴァーモントふたり旅

マンチェスターの宿の庭

のんびりと、紅葉世界一の異名を持つ、秋のヴァーモントへ行って来ました。

もっとも、のんびりしてたのは私だけで、一緒に行った友達は、片道10時間という道のりをぶっ通しで運転し続け、最初の目的地ストゥの村に着いた時には、紅葉だからってなんなのよ、ってな風情になっていましたけどね。夜もとっぷり暮れてたし。

ストゥの村

そんな友人がどう思っていたかは知りませんが、ヴァーモントはとにかく素晴らしかったです。

ストゥの村は観光地化されてもいたので、アーミッシュな雰囲気を味わえるかなという期待はやや裏切られましたが、自然を尊重する人々の暮らす村には、なんともゆっくり豊かな時間が流れていて、ただいるだけで心がふわーっと安らかになる感じが、大変幸福でした。

それに今回の旅、まるで誰かが草葉の陰でわたし達の話を聞いていて、欲しい物を全部あげようと頑張ってくれてるみたいだね、と友人と度々溜め息をついてしまうくらい幸運な出来事が頻発。
しまいには、もしかしてオレたちしぬんじゃね?的恐怖が襲ってくるほどのうまく行き具合でした。

中でも食べ物には恵まれていましたね。

東海岸ということで、またしても美味しいロブスターにありつけることを期待していたワタクシですが、ヴァーモントに関してそれは大きな誤解と判明。ストゥのどこにもロブスター屋なんてありゃしません。

それでも素晴らしいウッド・オーブン・レストランを見つけたわたし達は、そこで完璧な鴨料理を食べては有頂天となり、グルテン・フリーな食生活を徹底している友人は、グルテン・フリーとは思えないリッチなパンやケーキを出す店を見つけては舞い上がり。

ウッドオーヴンで仕上げた鴨料理。プラムソースで味付け。これで一人分。


そして友人から、東部名物ポップ・オーバーというパンの話を聞いて、一度は食べてみたいもんだと思っていたら、ヴァーモントでの最後の夕食に訪れたレストランで、「ランチに焼いたのがひとつだけ残っていたからあなたに。」とか言われて突然目の前に。

別にそのレストランの人は、わたしがポップ・オーバーを探し求めていたなんて知らないわけですが、あたかも"全てお見通しよ"的態度で、「ラッキーね。」とか言ってくださって大変シビレました。

手前がポップオーバー。奥に見えるパンは友人用のグルテンフリー・パン

ポップ・オーバーは、シュークリームのシューとクロワッサンの間みたいなパンで、バターの風味たっぷりのクロワッサン生地が、さくっもちっなシューになっているというかなんというか、とにかく、大変わたし好みのお味でございました。

そして食べ物ラッキーのハイライトはなんと言っても、ストゥから次の目的地マンチェスターへ移動する途中の出来事でございます。

その日は朝から雨模様で、霧に包まれたなんとも荘厳で幻想的な紅葉の森をうっとりと車で走り抜けながら、わたし達ふたりは腹ぺこでした。
なんたって、大自然ばかりでお店が一軒も無いんですよ奥さん!

どうすりゃいいんだろうねオレたちはトホホ、などと話しながら、目を見張るような美しい湖と渓谷に出くわした矢先に、獲物を狙う鷹のごとく動体視力が著しく上昇していたわたくしの両眼に、一軒の可愛らしい山小屋が飛び込んで来ました。
運転していた友人は、美しい湖と渓谷にすっかり目を奪われていたらしくスカっとその前を通り過ぎてしまったのですが、わたしからの激しいブーイングを受け、そんな小屋あったかよ、とか言いながら戻ってくれました。

レストランなのかどうかも定かでは無かったその山小屋の扉をそおっと開けると、中はこんな内装で。レストランでした!やっほー!!!!



しかも一歩足を踏み入れた途端にわたくしの鼻がいち早く感知したのは、ここにはまさかのロブスターがある!ということでした。

メニューを見ると明らかにシーフード専門店の品揃え。
入り口に猟った鹿の剥製が飾ってあるくせに。
そしてありました!あったんですよロブスターが!!!

とは言え。
例え東海岸でも、ロブスターにはお味にピンキリがあります。
しかもそこでは、通常お安くても30ドル〜40ドルはするロブスターが何故か19ドルというお安さ。
これっておかしくね?よく見ると、 LOBSTERじゃなくてTOBSTERとか書いてあるバチモンじゃね?と心に一抹の不安が。

するとそんなわたしの繊細なハートを知ってか知らずか、地元民らしきお客さんがわたし達に、ここのシーフードは新鮮で最高だよ、間違いないよ、と声をかけてくれたんです。
すかさず注文する飢えていたオレ。

すると、ハサミはついていなかったけど、なんと結構大きな二尾ものボイルド・ロブスターが!!!

ロブスター・テール、スイートポテトフライ、コールスロー、溶かしバター、というコンビネーションもロックポートそのまま♡

しかもお料理の仕方が大変洗練されていて、ロブスターも新鮮で柔らかくてとってもジューシー。遠い昔、ボストン郊外のロックポートという海辺の村で、目の前で水揚げされたロブスターをボイルして食べさせてくれたあの思い出の味に匹敵する美味しさでした。

こんな山の中の一軒家がまさかシーフード・レストランで、こんな新鮮なロブスターを出してくれるなんてと、狐につままれる心境とはまさにこのこと。
オレたちって実はサリーちゃんで、エイっと星付きのステッキを振ってこのレストラン出しちゃったんじゃね?とマジで思ってしまったほどの幸運でした。

こんな風に食べ物の幸運に恵まれ続けたわたし達でしたが、もうひとつ、絶対に触れておかねばならない味がございます。

それはストゥのアップル・サイダー工場で飲ませてくれる、作り立てのアップルサイダーです。
こんな風にタンクから直接出試飲させてくれるんですが、これがもうあなた。

飲んだ瞬間、頭を鈍器で殴られたみたいなショックを受ける程の美味しさなんですよ!

あんな林檎ジュース、初めて飲みました。

ポップオーバー・ブレッドのことを教えてくれた友人もここの工場を訪れこれを飲んだそうなのですが、それ以来林檎ジュースを封印したほど、やはり大変感動したそうです。
これだけ飲みに遥々ストゥまで出かける価値があるくらい、非常に特別な林檎ジュースでした。

ここはまた林檎酵母から作るドーナツも名物らしく、みんなダース買いしてましたよ。わたしももちろん買ったがね。

その他にもこの旅では、たまたまオクトーバー・フェスタに遭遇して夜はパーティーに参加、朝はかわいらしいパレードまで見ることが出来て、本当に恵まれていました。

小さなヴィレッジのお祭りなので盛大さは無かったけれど、様々に工夫された演出が素朴で楽しくて、ちょっとパスカルズ初めてのフランス公演で行ったナンシーのクリスマス・パレードのことなんて思い出しちゃいました。

そう。
今回改めて感じたのは、やっぱりアメリカ東海岸の自然や雰囲気は、中西部とは全く趣きが違うということです。
中西部に住む人も言ってたけれど、東海岸の美しさはかなり繊細というか、微細な美なんですよね。

中西部がどかーーーんだとしたら、東海岸は楚々....という感じ。
まるでヨーロッパにいるみたいだな、と始終感じてましたが、地理的にももしかしたら昔は地続きだったのかもしれません。

一口にアメリカと言っても西海岸にはまた別の趣きがあり....しかし考えてみれば、「アメリカ」、なんていう概念は人間が勝手に括った国境ですからね。自然にしてみたら知ったこっちゃ無いですよね。あれだけの面積があるんですから、あっちこっちが全く違っていて自然なんですよね。

まあそんなわけですが、ヴァーモントは本当に安らげる土地で、実に離れがたかったです。普段ニューヨークなんか好きで度々行ってる私が、ヴァーモントの帰路にニューヨークに入った瞬間に、すっごく悲しくなってしまったほど。
オレの体は、やっぱり大自然に馴染む様に出来ているんだぜ。

ところで全体的にショップ数が圧倒的に少ないストゥとマンチェスターの村でしたが、一軒一軒は大変充実の内容で、狭い軒先を入ってみると、ものすごく奥まで広がった大きなお店だったりするんです。

特にマンチェスターに滞在中は、ショップの魅力をおおいに楽しみました。

マンチェスターから30分程の村にあったクリスマス・ショップ

ストゥのアート雑貨屋さん入り口

そんなわけで初めてのヴァーモント旅は大成功。
次回は夏の花盛りの時期に来て、友人お薦めのターシャ・トゥーダーさんのお庭を訪れたいなあと思っています。


最後に、ある朝起きたら世界が薔薇色に染まっていた、ストゥの宿からの景色をば。
あのとき程、早起きは三文の得、を実感したことはありません。。本当に不思議な美しさに満ちていた瞬間でした。




2014年10月8日水曜日

黄檗普茶料理 初体験話


干菓子と宇治茶からスタート

パスカルズのツアーで京都に行く前に、偶然二カ所から黄檗普茶料理の話を聞いた。そしてとても心惹かれたのです。

江戸時代初期に中国から招かれた坊さんによって始まった黄檗宗というのがあって、このお料理はそれ由来なんだそうですので、その宗派の知識もなんにも無いのに食べてもいいのか、という気分もややありましたが、宗教や信仰というものはそもそもおおらかなものであるはず、と思いますので、お相伴にあずかることにしたのです。
美しい蘭茶。蘭は塩漬けで食べられます。

私はあんまり自分の行動に人様を巻き込まないタイプなのですが、このお料理を出してくださるお寺では ふたりからの予約となっていましたので、思い切ってパスカルズのM井部長やお友達数人をお誘いしてみました。

 調べてみると京都にはこの黄檗普茶料理を食べさせてくれるお店が三軒、お寺がひとつあり、実のところ目的であったお寺の予約は間に合わなかったので、お寺の門前にある料亭に行きました。ちなみにここは、ひとりからでも予約を受け付けているようです。
湯葉の山椒和えとキノコと山芋の和え物

そしてお料理はこれがもう、素晴らしかったです!!

盛りつけの美しさも、お料理の種類も味付けも、なにもかも私好み。少し中華に寄った和懐石精進料理、ということでしたが、あまり中華料理の風合いは感じなかったな。

もうちょっとなんていうんですか?
"古代"、という印象が。
唯一中華料理っぽかった野菜の炒め物
私は、過美な装飾の施されていない、古代のすとんとした美の風合いが大好きなのですが、このお料理はまさに、味付けも色合いもそんな感じが。          
真っすぐに、素材の美味しさと天然の色彩の美しさに落ちてゆく様な、潔い清々しさがあります。
しかし決して素材に頼り切るわけではなく、そこにはお料理人さんの、加え過ぎない、しかし退き過ぎもしない、という透徹された感覚が、満ち満ちていました。                                     
胡麻豆腐二人

精進料理なので魚もお肉も全く使っていませんが、鰻に似せたお豆腐のお料理などは、確かにほんのりと鰻の味を感じて面白かったし、別に鰻にこだわらないとしても、そういう発明料理としても美味しくて楽しめました。

和食が文化遺産になるには、やはりそれなりの価値があるなと改めて思いました。
野菜料理あれこれ
他の国の料理と比べて、ということではなく、この国の料理には、深く自然界の森羅万象に寄り添う、独特の風雅があるのですよね。

これはおそらく、人間の造り上げる文化の基本の要素として、大切に保たれてほしいものだと思いました。

というわけで、すっかり感銘し、普茶料理にはまってしまったワタクシ。。。

実は京都には銀杏庵さんという、建物自体も世界遺産になっているという小さな普茶料理のお店があることを突き止めました。

しっかり味のついている天婦羅。
一番下の黄色いのは、湯葉で作った満月だそうです。
ここは 一日に4組しかお客をとらないということで、競争率も激しいらしいのですが、今度是非行ってみたいと思いました。

ところで都内にも一軒、宇治の萬福寺で普茶料理を作っておられたという方の、普茶料理のお店があるそうです。

どうしても食べたくなったらそこも狙い目だなと、虎視眈々と次の訪問を狙うオレ様なのでした。


おひつで出て来る季節のご飯と香の物


松茸ご飯




絵画の様なお吸い物 
デザートは紫蘇のジュレ