|
エシレの袋とクリスマス・ツリーの記念撮影 |
スリリングな体験だった。
友達のあるくんがエシレのバターケーキ"ガトー・エシレ・ナチュール”を食べてみたいと言い出した時から、友人達との間でいつしかエシレ・ケーキの会をやろうという話が盛り上がり、それが本日、12月23日天皇誕生日の休日、クリスマス・イブの前日のホリデーとなったのだ。
わざわざそんな日を選ばねばならない程の、多忙なメンバーではない、と思う。
ただでさえ一日15台しか販売しないケーキ、開店直後に即座に売り切れると兼ねてから噂の入手困難なケーキを、なんでクリスマス・イブの前日の休日なんていう特別な日に食べようということになったのか、どうにも気がふれているとしか思えない決断なのだが、とにかくそうなったのだ。
購入役はわたくしである。
なんでかって言うと、エシレのあるブリック・スクエアは私のシマなのであり、今回集る誰よりも私には地の利があり、うちからもすぐに着くからだ。
私は別にエシレが無くても、ブリック・スクエアを含める丸の内界隈が好きでよく寄るので、ケーキの為に並ぶという生まれて初めての試みでさえ、なんとなく当日の様子が透けて見えるような気がするくらい、大変馴染みの場所なのである。
エシレが開店した当時は、確かにガトー・エシレは人気があったようだが、今はそんなでもないでしょ、と私は思っていた。
現に平日の午後とかに寄ってもまだ売ってる時もあるしね。
いくら12月23日の休日ではあっても、みんなクリスマスにはもっとクリスマスらしいケーキを選ぶんじゃない?年中売ってるガトー・エシレには、そんなに集らないんじゃない?と。
10時開店のこの店に、大体30分くらい前に着く様に計算して、それでもやや早めに家を出た。
するとホームに、何故か臨時列車が入って来た。
乗ろうと思っていた電車の15分程前に出るやつで、時刻表には載っていないまさに臨時の電車だった。
それに乗るとエシレに9時頃着いてしまい、1時間も立っていなければならないことになる。
天気がいいとは言え冬の寒いさなかに1時間も立ってなきゃならんのはイヤだし、他に誰もいなかったらと思うとなんとなく恥ずかしい。
だけど折角いいタイミングで入って来た電車である。
私はまずそれに乗って9時にエシレに行き、誰もいなかったら30分くらい近くのスタバでまったり休んで、それからまたエシレに行こうと思ったわけ。
9時ちょっと過ぎに東京駅到着。
ここまで来た時点で、脚が勝手にずんずんエシレへと向かう。
もしこのまま並ばねばならないとしたら、先にスタバで何か飲み物でもげとした方がいいんじゃないのかな、と思ったのに、脚が勝手にずんずんエシレに向かうので、歯向かわずにそれに任せた。
地下のエスカレーターを昇ると、いつもの素敵なブリック・スクエアの景色が広がる。
ここはロンドンの町中にある小さなオアシスみたいな公園で、大人っぽい庭デザインがいつも素敵だと思うのだ。
広場の真ん中には”不思議の国のアリス”をテーマにしたクリスマス・ツリー。
女性がひとり、そのツリーの写真を撮っていたので私も、と思ったのだが、何故か脚が止まらないので、歩きながらのこんな写真になってしまう。。ぶれてますがな。
そしていよいよ公園を横切ってエシレを目指すと、すぐにツリーの向こうにお店が。
この時点で私は、全てをあきらめました。。。。。。。。。。。
だって、既に店の前には黒山の人だかりが。。。。。。。。。。。。
甘かった。。
わ、私は人を、世間というものを、まるでわかっていないのでわ。
心理学をアメリカで、7年も学んだのにかよ!?
世間の人というものは、クリスマス・イブの前日のホリデイに、朝早くエシレに並んでガトー・エシレを買うものなんだよ!
あーーーーーーーーーーーーーー。。。。。。。。
店に着いてから、ざっと並んでいる人の数を数える。
既に20人はいるじゃない。
ガトー・エシレは一日15台限定。
既に負け犬決定である。
どうしよう、と思ったが、私はとりあえず並ぶ事にした。
その時点で9時15分。
ツリーの写真を撮っていた女性も現れ、私の数人後ろに並んだ。
まさかこの、ツリーの写真を立ち止まって撮ったかどうかで勝敗が分かれるとは、この時には思いもよりませんでした。
そして恐ろしいことに。
10分も経たないうちに、私の後ろには長蛇の列が.......................
ブリック・スクエアの敷地を超えて通りの向こうへと、建物に沿ってずうっと列は伸び、最後尾はもう見えないくらいに。もう大体40人か、もっといる。
こ、この人たちは。
何故並んでいるのか。。。
ガトー・エシレは15台しか無い、と色んなサイトで高らかに謳われているのだから、もう絶対に、どう転んでも買えないのは明らかなのになんで並んでいるんだよ、と思いつつ、同じ穴のムジナの私だって何故か並んでいるのだから人のことは言えない。
しかし私が並ぶのには理由があった。
私の前に並ぶ人数が15人を超えていたのは明らかなのだが、その内の数人は、友人同士やカップルで来ているグループなのだ。
そのグループが、もしもグループで一個、つまりひとりが一個ずつ買わなければ、もしかしたらギリギリで私にもチャンスがあるのかも。
そんな蜘蛛の糸のような確率に、私は賭けてみることにしたのである。
幸い私が並んでいる位置からはガラス張りの店内がよく見えて、オーブンからどんどん出て来る焼き菓子が陳列棚に並ぶ様子や、お店の人たちがてきぱき働く様子が見てて気持ち良くて、全く退屈しない。
北風の通うビルの谷間ではあったけれど、いつもは忌々しいと思うくらい分厚いコートを着ていたおかげで、寒さも全く感じない。
時間は思っていたより早く流れ、開店時間の10時はすぐに訪れた。
それにしてもアレですよ。
私はてっきり、ある程度の時間になったらお店から、ここまでの人しかガトー・エシレは買えないよ的お知らせがあると思っていたのだが、そういうことは全く無く、速やかにお店の扉は開いた。大体6人ずつくらいしかお店に入れてくれないので、それでもまだ待たねばならなかった。
友人同士で来ていた人たちが、ひとり一箱ずつガトー・エシレを買っているのを見て、さすがの私も覚悟を決めた。
代替品を考えた時、もうこの際だからいちまんえんのブッシュ・ド・ノエルでもいっか、とも考えた。
だって一時間も並んだんだぜ涙。
三回目に扉が開いた時に、私を含む一塊がやっとお店に入れた。
クロワッサンや焼き菓子のいい匂いの中で、お店の人がひとりひとりから注文をとってくれる。
この段階での緊張は、はっきり言ってピークだったね。
この時の気持ちは、どんな言葉でも言い表せないね。
並んでいる間は、とにかくこんなに大変なのはひとえに日付のせいだけで、平日のなんでもない時なら、こんなに大変なわけはなく、今日はダメでも後日仕切り直せばいいやん、なんて思って結構気楽だった。
しかしいざ、一時間並んだ後に、しかも後ろに並ぶ長蛇の列を見てしまった後に、いよいよ注文をとってもらえる、という瞬間が来た時、私の心は瞬時に、ここで買えないとわかったら、私結構凹むよ、と強く感じたのである。
結構どころか、立ち直れないくらい凹むかも。
なんだか、体がフルフルと震えるのを感じる。
こ、怖い。
逃げたい。
買えない、という現実に直面するくらいなら、全てを投げ出してこの場から立ち去った方がずうっとマシ。
そんな衝動に襲われながら、遂に私の番が訪れ、私は、私は遂に店員さんに、震える声で聞いてみた。
が 、ガトー・エシレは、まだありますか?
はい♩
なにをーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっ!!!!???
あ、あ、あ、あるのっっ!?
が、ガトー・エシレがまだ!?
ガトー・エツレとかいうバッタもんじゃなくっっっ!???
渡された番号札は17番。
あれ?
これ、番号的にはアウトなんですけど。
見ると、私のうしろ、20番目までの人にはガトー・エシレの番号札を配り、それからあの地獄のアナウンス、ガトー・エシレは売り切れですー!が聞こえてきたのだ。
これは。
恐らく。
なんらかの理由で、今日は20台売ってくれるのだろう。
よくわからないままレジに進んで番号札を見せると、ガトー・エシレ一台ですね、とにこやかに言われて会計が行われる。
やった。
よくわからないけれど、私は目的のケーキを手に入れたのだ。
嬉し過ぎて、感情が無い。
それにしても。
エシレ、並んでいる人たちに、ここまでしかガトー・エシレ買えませんインフォメーションも無ければ、今日は特別に20台売りますよ的連絡も無く。
淡々と静かに、ただその日の自分の作業を行う店員さんたちを前に、客は道しるべの無い森の中の迷い子のように、買えるかどうかわからないケーキのために並ぶだけ。
美しかったよ!
昨今、何かと過保護に先手を打つサービス業が多い中で、こうまでシンプルに、客が自分の身の振り方を自分で決めねばならない、このシステム。
皮肉じゃなくね、私は、すごく綺麗だと感じたんだよね。
ここまでシンプルに業務して、それで文句を言う人もいない。
こういう環境だと、野生の勘が培われるんだよ。
わたしたちはただ自分の責任で、並び続けるかどうかの覚悟を決めるだけ。
それでいいんだよ。
ケーキ屋さんの仕事は、美味しいケーキを丁寧に作るだけだ。
その美味しいケーキをありがたがって並ぶお客の采配までは、 しなくていい。
十分に美味しいケーキを、高いクオリティで作り続けてくれれば、それでいいんである。
しかもどういう決断なのか、特に高らかに宣伝もせずに、いつもより5台も多く出してくれるなんて、粋じゃないですか。
私は買えたからそう思えるだけかもしれないけれど、買えたからこそ、正常な感覚で現場の潔さを感じられたのかもしれないよ。
そんなわけで、無事に任務遂行。
友人らの待つ西荻へ、美しい青い袋を持って帰れる、この喜びよ。
エシレ、ありがとう!
それから、何故かタイム・スケジュールとは違う、15分早い電車を出してくれたJRの協力もね。
あれに乗らなかったら、はっきり言ってアウトでした。
|
私が買ったガトー・エシレ・ナチュール。ニヒル牛2カフェの赤いテーブルによく映えます。 |